最初は冗談だと思われて『何おかしなこと言ってんだよ』と笑われた。信じないならそれでもいいか、と意地になって肯定もしなかったが、話をして3日ほど経ってから、楠田は改めて『あの話、本当？』と問い返してきた。
透の記憶喪失に楠田は同情しなかった。可哀想、とは一言も言わず『マンガみたいだよな』と面白がっていた。家でいつも辛気臭い顔を見ているので、深刻でない、明るい受け取り方はかえって気持ちが楽だった。
その日の晩も、楠田とペアで夜勤に入った。夜は昼間と違い、店の掃除や在庫の整理、商品の入れ替えれと客が少なくても色々とやることが多い。交代をして早々に店内を動き始めるのも嫌で、楠田と2人、レジの奥に腰掛けてぼんやりしていた。楠田は店の商品であるマンガ雑誌をこっそりレジの中に持ち込み、監視カメラの死角でパラパラベ捲っていた。
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